
癇癪はしつけの問題ではありません
― シリーズ① 処理容量の限界から起きる連鎖 ―
はじめに
私は発達の専門家ではありません。
医療や心理の資格を持つ立場でもありません。
ただ、親として向き合いながら、書籍や研究、専門家の発信を読み込み、できる限り調べ続けてきました。
この記事は、私が調べたり子供と暮らす中での経験をもとに整理したものです。
そのため、すべての子どもに当てはまるとは限りませんが、どこか一つでもヒントになればと思っています。
癇癪は、しつけの問題ではない
何度も繰り返される癇癪に、心が折れそうになることはありませんか。
外ではおとなしくできるのに、家では爆発する。
叱っても止まらず、優しくしても収まらない。
「育て方が悪いのだろうか」と、考えてしまうこともあるかもしれません。
ですが、私は
癇癪は、しつけの問題ではない
と考えています。
癇癪は“突然”ではない
癇癪は、ある瞬間にいきなり起きているように見えます。
しかし実際には、いくつかの段階を経た「結果」であることが少なくないと考えられます。
例えば、こんな流れです。

- 学校での緊張
- 音や光などの感覚刺激
- 予定変更への対応
- 一日の疲労の蓄積
こうした刺激が少しずつ積み重なります。
発達特性のある子どもでは、実行機能(段取り・切り替え・抑制などを担う働き)や情動調整に負荷がかかりやすい傾向があることが報告されています。
処理できる量を超えたとき、コップに水を注ぎ過ぎた時のように溢れてしまうことがあります。
それが、癇癪です。
つまり、癇癪は「困らせたい行動」ではなく、
多くの情報・出来事を処理しきれなかった結果なのです。
なぜ外では我慢できるのか
「学校では頑張れているのに、なぜ家で?」
ここに大きなヒントがあります。
外では、
- 失敗しないように
- 注意されないように
- 空気を読もうとして
子どもは常に自己制御を使っています。
自己制御はエネルギーを消費します。
一日中ブレーキを踏み続けるようなものです。
さらに、学校は刺激の多い場所です。
- 音
- 人
- 集団のルール
- 予測できない出来事
処理容量は少しずつ減っていきます。
そして家に帰る。
安全な場所で緊張が緩む。
その瞬間、抑えていた感情が一気に放出されることがあります。
家で爆発するのは、外で頑張っている証拠でもあります。
これは甘えではなく、
神経のブレーキが外れた状態なのです。
「その場で叱らなきゃ」という思い
私は子供の頃からしつけとは、
- 「その場で言わないとわからない」
- 「甘やかすと増長する」
と言われてきました。
これは、完全に間違いであるとも言えず、
実際に行動と結果の近さ(即時性)は学習にとって大切です。
ただし、これには前提があります。
子どもが“学習できる状態”にあること。
強い情動が起きているとき、理性的な判断を担う前頭前野の働きは一時的に低下しています。
これは大人でも同じです。
怒っている最中に、冷静な説明が入りにくいのと似ています。
癇癪の最中は、
「理解させる」タイミングではない可能性が高いのです。
癇癪のあとに残るもの
癇癪そのものは一時的な現象です。
しかし問題は、その後に繰り返されるやりとりです。
- 「なんでできないの」
- 「また同じことを」
- 「いつになったらわかるの」
こうした言葉は、行動ではなく“自分”に向かうことがあります。
子どもの中で、
「自分はダメだ」
「どうせできない」
という感覚が少しずつ積み重なっていく。
行動の問題が、
自己評価の問題に変わっていくことがあります。
これが繰り返されると、自己肯定感は少しずつ静かに削られていきます。
自己肯定感は、大きな失敗で一気に壊れるよりも、
小さな否定の積み重ねで削られていくことが多いのです。
家は“矯正”ではなく“充電”の場所
帰宅直後に、
- 「宿題は?」
- 「早く片付けて」
- 「なんでできないの?」
と立て続けに言われたらどうでしょう。
エネルギーが少ない状態では、それだけで負荷になってしまいます。
家を回復の場所にするために、できることがあります。
① 帰宅直後は回復を優先する
10分だけでも、何も足さない時間をつくる。
② 切り替えには予告を入れる
突然の「今すぐやめて」は負荷が大きい。
③ 爆発後は受け入れてあげる
「だから言ったでしょ」ではなく、
「今日は大変だったね」と受け止める。
家は、矯正の場所ではなく、充電の場所です。
最後に
癇癪は、神経系の問題です。
連鎖の中で起きる現象です。
否定が積み重なれば、自己評価は少しずつ下がっていってしまいます。
そうであれば――
理解しようとする姿勢や、受け止めようとする関わりもまた、子供の中に少しずつ積み重なっていくのではないかと思います。
癇癪は、しつけの問題ではなく処理を超えたときにおこる「現象」です。
仕組みを知ることは、
連鎖を緩める第一歩になります。
家が「矯正の場所」ではなく「回復の場所」になるとき、
自己肯定感は静かに守られていくのではないかと思います。
